ベジタブルやバイオマスだけじゃない ~環境に優しい印刷インキの世界

 

 

ものづくりにおいて環境への配慮はもはや当たり前になっていますが、印刷業界も然りで環境負荷の少ない材料を使った印刷物を数多く見かけるようになりました。弊社が主に使用しているプラスチックシートなどの印刷基材や、印刷インキも環境に配慮したものが続々と登場しています。
そんな中で最近増えているのが 植物油インキ(ベジタブルインキ) バイオマスインキ などの環境に優しい印刷インキを使い、環境マークを表示したいという相談です。

 

印刷インキ工業会のホームページによると、近年の環境対応型インキ(オフセット印刷全体)の生産量の割合は9割以上が植物油インキで、環境にやさしいインキといえば植物油インキという状態になっています。

 


印刷インキ工業会/環境と印刷インキ https://www.ink-jpima.org/ink_kankyou.html

 

そんな中で割合が増えているのが「UVインキ」。弊社がメインで使っているインキです。
この表からもわかるように、UVインキは「環境対応型インキ」に分類されます。植物油など入っていなくても環境に優しいインキという位置づけなんですが、その所以が伝わりにくいように思います。印刷業界でも知らない人が意外に多いのではないでしょうか。

そこで今回は、環境に優しい環境対応型インキについてお伝えしたいと思います。

 

実は植物油やバイオマスじゃなくても環境に優しいUVインキ。

弊社は「UVオフセット印刷」という印刷方法でクリアファイルなど化成品の印刷を行っています。
UVオフセット印刷とは、「UVインキ」(紫外線硬化型インキ)といって、紫外線を照射するとすぐに硬化するタイプの印刷インキを使用し、印刷後の乾燥時間を大幅に短縮することができる印刷方法。従来の油性インキにくらべ乾燥時間が大幅に短く、素早く次の工程に進めるため労働環境の改善にもつながります。主に紙やプラスチックシートなどへの印刷に使用されています。

「UVインキ」はもともと有機溶剤を含んでおらず、乾燥時に有害なVOC(揮発性有機化合物)を輩出しないため大気環境に優しいのが特徴。その一方で、バイオマス成分や植物油を含まないため「バイオマスマーク」や「植物油マーク」は表示できません。
せっかく環境に優しいインキなのに、何も表示できないのはもったいない!と思ってしまいますよね。
ご安心ください。環境対応のアピールとしてはVOCを含まないことを示す「VOCフリーマーク」の表示が可能です。
そして時代のニーズに合わせUVインキにもバイオマス成分や植物油を加えた製品が登場。
バイオマスマークを表示できるUV硬化タイプの「バイオマスUVインキ」や、「ライスマーク」を表示できるUV硬化タイプの「UVライスインキ」などは、環境マークによりアピールができるようになっています。

 


●VOCとは?
VOCとは、揮発性有機化合物のことで、Volatile Organic Compound の略称です。塗料、印刷インキ、接着剤、洗浄剤、ガソリン、シンナーなどに含まれるトルエン、キシレン、酢酸エチルなどが代表的な物質です。大気中の光化学反応により、光化学スモッグを引き起こす原因物質のひとつとされています。

経済産業省/揮発性有機化合物(VOC)排出抑制における 自主的取組の成果
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/sangyo_kankyo/pdf/005_s03_00.pdf


 

 

 

環境に優しいと言ってもどのように優しいのか?

単に環境に優しいと言っても、その優しさのポイントはさまざまなのが印刷インキの世界…。
そこで簡単にまとめてみました。環境対応型のインキは環境マーク別に整理するとわかりやすいです。
ここでは印刷インキに使用される代表的な環境マークを4つ紹介します。

 

ソイ(大豆油)インキの代替インキとして普及
植物油インキ(ベジタブルインキ)

「植物油インキ」はベジタブルインキとも呼ばれ、再生産可能な大豆油、亜麻仁油、桐油、ヤシ油、パーム油等植物由来の油、及びそれらを主体とした廃食用油等をリサイクルした再生油などを石油系溶剤の代わりに使用。石油系の溶剤の使用を低く抑え、かわりにVOCの輩出が少ない植物油を使うことで石油資源の削減に貢献している。現在では枚葉インキ(油性インキ)のほとんどがこの植物油インキです。

●環境に優しい点:石油資源の使用削減
●表示可能マーク:植物油インキマーク/印刷インキ工業連合会
http://www.ink-jpima.org/ink_syokubutu.html

 

植物由来の資源を原料に使用しCO2削減
バイオマスインキ

油性インキの石油由来成分の一部をバイオマスに置き換えたのが「バイオマスインキ」。バイオマスインキは原料の植物が成長する過程でCO2を吸収するため、廃棄の際に燃焼しても「カーボンニュートラル」の考え方により地球温暖化の原因となるCO2量を増やさないことが特長。油性インキにくらべCO2の削減につながります。さらに製造時に使用する石油資源を削減することで、有限資源の節約にも貢献できます。

●環境に優しい点:カーボンニュートラル(Co2削減)
●表示可能マーク:バイオマスマーク/一般社団法人日本有機資源協会
https://www.jora.jp/biomassmark/

 

 

国産の米ぬかを使い原料輸送のCO2を削減
ライスインキ

日本の米ぬかを使用したインキ。環境に優しいインキとして昔主流だった大豆油インキは、北米から大豆油を輸入するため輸送マイレージ(CO2排出量)が大きいことが課題でした。そこで国産の米ぬかを使用することで輸送に伴うCO2を抑えるとともに、地産地消の推進につながるとして登場したのがライスインキです。

●環境に優しい点:輸送マイレージ低減(CO2削減)、地産地消の推進、廃棄物削減
※輸送マイレージ(フードマイレージ)とは、食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせた指標。
 生産地から食卓までの距離が短い食料を食べたほうが環境負荷が少ないという考え方。
●表示可能マーク:ライスマーク/ライスインキ・コンソーシアム
https://www.riceink.jp/index.html

 

 

石油系溶剤の含有率1%未満、植物油インキの進化形
VOCフリー(ノンVOC)インキ

VOCフリーインキ(ノンVOCインキ)は、構成成分のうち石油系溶剤を植物油等に置き換え1%未満に抑えたインキです。従来の植物油インキよりもさらに環境負荷の少ないインキという位置づけで、植物油には、大豆油、亜麻仁油、桐油、ヤシ油、米ぬか油等が使用されています。
条件を満たした植物油インキのほか、米ぬかを配合したライスインキ、石油系溶剤が極めて少ないUVインキにも表示できます。
※インキメーカーにより名称やマークが異なります。

●環境に優しい点:石油資源の使用削減
●表示可能マーク:VOCフリーマーク/株式会社T&K TOKAなど
https://www.tk-toka.co.jp/product/ink/environment/detail/offset_vocfree.html

 

紫外線で硬化するため有機溶剤が不要
UVインキ

UVインキは紫外線を照射すると硬化する性質を持ち、印刷されたインキを瞬時に乾燥することができるインキです。紫外線で硬化するため有機溶剤が不要で、VOC成分が極めて少ないので人や環境に優しいのが特徴です。特定の環境マークはありませんが、VOCフリーマークを表示できるほか、植物油やバイオマス、米ぬかを配合したタイプにはそれぞれ環境マークの表示が可能です
UVインキは、主にオフセット印刷、フレキソ印刷で使用されています。

●環境に優しい点:有機溶剤(VOC)を含まないので環境を汚さない
●表示可能マーク:VOCフリーマーク/株式会社T&K TOKAなど
https://www.tk-toka.co.jp/product/ink/environment/detail/offset_vocfree.html

 

 

下のグラフは各インキの組成割合を表しています。
右端のグラフが弊社がクリアファイルなどの印刷に使用しているUVインキ、その他は全て枚葉インキ(油性インキ)です。
環境対応型のインキは石油系溶剤(黄色の部分)が従来のインキに比べ少なくなっています。UVインキにはもともと石油系溶剤が入っていません。
枚葉インキ、UVインキにかかわらず石油系溶剤を含まないインキはVOCフリーインキに分類されます。
UVインキにもバイオマスや米ぬかを配合したバイオマスインキとライスインキがあります。

 

次に少々ざっくりとしたものになりますが、弊社が使用しているインキと表示可能な環境マークの一覧です。
PPやPETの印刷に使用するのはUVインキ(青い)です。印刷インキの環境への対応は多様化が進み、なかには植物油マーク、バイオマスマーク、ライスマーク、VOCフリーマークすべてを表示できるインキもあります。
なお、これらマークを印刷物に表示する場合は、各マークの認定元への申請が必要になります。

 

 

弊社では紫外線で硬化するUVインキを使用してクリアファイルなどの印刷を行っています。
UVインキは有機溶剤を含まず、もともと環境に優しく人体への影響も少ないのが特徴ですが、近年そのUVインキにもより環境に配慮した植物油バイオマスを配合したものが登場しています。
ただしデメリットもあって、一般のUVインキにくらべ硬化時間が長くかかってしまいます。乾きが早いのがUVインキのメリット故に少し残念なところですが、印刷物にバイオマスマークやライスマークなどの環境マークを表示することでよりエコアピールができるようになっています。

 

 


印刷インキの世界、いかがでしたか?
世界といっても実際には、本稿で取り上げたオフセット印刷とは違う種類の印刷がたくさんあります。印刷の種類が変われば使用するインキも変わるので、環境への対応もさまざまだと思いますが、今回は弊社が得意とするUVオフセット印刷を中心にまとめてみました。
今後も環境対応のトレンドは続くと考えられるので、エコ素材に加え環境に配慮した印刷インキにも注目されてみてはいかがでしょうか?